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2004-11-13

_ [読書メモ] 涼宮ハルヒシリーズ

 山本弘氏は、「ライトノベルという分野は軽視されている」と主張している。私自身もそう言ったジャンルわけによって面白い読書体験を逃すのもバカらしいので、色々読んでみてはいる。とは言えスタージョンの法則通り面白いものはなかなかないのが事実である。一応好評で続編が出てシリーズものになっているようなものをセレクトしているのに(ちなみに『R.O.D.』『護くんに女神の祝福を!』)どれもあまりピンと来なかった。ライトノベルに入るかどうかよく分からないが、面白かったのは『マリア様がみてる』シリーズくらいだったなあ。

 まあそんな中サイコドクターさんところで紹介されていたので読んでみて面白かったのが、今回紹介する涼宮ハルヒシリーズ。ネタバレなんか気にせず思うままに書くんで未読の人は以下読まない方がいいかも。

_ [読書メモ] 『涼宮ハルヒの憂鬱』

涼宮ハルヒの憂鬱  シリーズ1巻目のこの本では、まずはシリーズ最初ということで登場人物が次々に現れるわけだが、彼らが皆クリシェにまみれた人物造形なのである。周りの迷惑を顧みない思いついたら一直線のパワフルガールの涼宮ハルヒ。その子に引っ張り回される役回りの主人公のキョン(本名すら言及されない扱い)。文芸部の読書好きの眼鏡っ娘の長門有希。童顔巨乳でな萌えっ娘の朝比奈みくる(コスプレ担当でもある)。いつもスマイルの謎のハンサム転校生古泉一樹。以上が主要な登場人物だが、他にも明朗活発で人当たりの良い女委員長なんてのも出てくる。

 正直この辺りが出てきたあたりで「また凡百のラノベかあ」とか思いながら読んでいたのだが(これで訳知り顔で主人公に謎の依頼をする生徒会長がいれば完璧だよ)、その辺りから少しづつクリシェから外れていく。主人公を殺そうとする委員長。そこから明かされる登場人物たちの秘密。それが明かされると、表題の涼宮ハルヒも含めた登場人物が典型的な人物造形であることの必然性が明らかになる(ならない人もいるがまあそれはそれ)。このような、ありきたりと見せかけて、(いわゆる)SF的な仕掛けでそれを裏返してみせるというあたり、(本来的な)SFのセンスオブワンダーが十分存在して非常に楽しめた。

 最終的に世界を救う鍵になったのがキョンとハルヒの恋愛感情ということで、最終的に(道具立てに比べれば)ありきたりなボーイミーツガール系の落ちというのがちょっとなんだが、ここであまり実験的にしても一般的なお話として収拾がつかなくなるだろうからこれはある意味仕方ない部分だろうか。

 あと特筆すべきは語り手キョンの語り口だ。前にもちょこっと書いたが、シニカルな男性一人称好きの俺にど真ん中な語り口である。かなり独特な語り口なのでもしかしたら好き嫌いがあるかも。チョット前にはやった椎名誠とかの形容詞冗長語り口と手口は似ているかも(道具立ては全然違うよ。念のため)。そういう80年代の残滓的な部分から考えると、作者は30台の人なのかな(と思って調べてみたら1970年生まれだって。ドンピシャ)。

_ [読書メモ] 『涼宮ハルヒの溜息』

涼宮ハルヒの溜息  前作がお話として完結してしまっていること、あとは色々な書評を見るに前作と比べると面白くないという評判が多いということで、あまり期待しないで読んだのだが、まあ期待よりは面白かった。

 がストーリーよりも、ハルヒを巡る陣営の立場の違いであるとか、ハルヒの本人が気づいていない能力が具体的に発現したらどうなるか、といったガジェット部分の描写の方が興味深かったという意味で面白かった。ストーリー自体はパワフルガール引っ張りかき回しモノの域を一歩も出ていない印象。

 まあある意味この作品は、一作目が『クリムゾンキングの宮殿』であるのに対する『ポセイドンの目覚め』なんだな。というかそう言う一般性のない喩えをして俺は一体何を伝えたいのだろう。

_ [読書メモ] 『涼宮ハルヒの退屈』

涼宮ハルヒの退屈  一作目と二作目の間のエピソードを集めた短編集。これも巷の評判ではあまり面白くないということであったが、まあオレ的にはまあまあ。これは『アイランド』だな。あれもいろいろ批判されるが、ボズやウォーレスってある種のロック感があってその辺はわりと好きなんだよ、俺は。

 それはさておきようやく未来人が未来人らしくタイムトラベルをかますし、朝比奈さんは朝比奈さんらしくなくすべきでないものをなくしてしまうし、宇宙人は宇宙人らしい時空を超えた解決策を披露するし。狭義のSF的な面白さは結構ある。といっても短編一つでの話だけどね。

 ほかの短編はまあ平均的な出来。っつうかここで語ろうというモチベーションをかき立てるほどのフックは俺にとってはなかった、ってところ。

_ [読書メモ] 『涼宮ハルヒの消失』

涼宮ハルヒの消失  表題通りハルヒが突然「いなかったこと」になっている世界に放り込まれたキョンはどうする? ということでこれは快作。これまでの伏線も生かしてSF的大技を見事に決めて、主人公の心理描写もしっかりこなして着地している。

 最終的にキョンはハルヒに振り回される立場を主体的に選択し直す。そこで第一作のラストの「フリ」がようやく「抜けた」観がある。2作目3作目の低調も、これを引き立てるための伏線に過ぎなかったと思わせる。実際にいろいろ伏線も回収しているしね。2、3巻というのはこれを読むために存在すると言っていいだろう。おそらく2、3巻は一回読んだだけで再読しようという気にはならなかったと思おうが、これを読んだ後は再読したいと思うはずだ。

 とりあえず寝袋から起き出すハルヒが非常にかわいらしく、キョンと一緒に寝顔に落書きする衝動に駆られてしまそうな部分がクライマックス。

 ということでこれは、その存在によって80年代のくそといわれた作品の評価を一転させてしまった『Thrak』だ(もうこうなったらこの喩えは最後までやっちまうぞ)。

_ [読書メモ] 『涼宮ハルヒの暴走』

涼宮ハルヒの暴走  またも短編集。時期的には長編である1巻と2巻の間、2巻と4巻の間、そして4巻以降でそれぞれ一作ずつで3作納められている。

 白眉は『エンドレスエイト』。まあ要は『うる星やつらビューティフルドリーマー』なわけだが(この作品も俺ら30台には衝撃的な作品だった)、かなり思い切った数字に笑う。15498とか8769とか。最終的に抜け出すきっかけになったのは、一緒に夏休みの宿題を仕上げる機会を設けたことということになっているが、じつはハルヒがキョンの家に遊びに行けたことなんじゃないだろうかとなんとなく思ったことよ。高校生くらいでも、女の子は彼氏の親に紹介されるとまんざらでもないらしいんだよね。なんか目茶苦茶余所行きの顔してしおらしい挨拶なんかするんだよな。それでその後は微妙にもう女房感アップってな感じである意味辟易って感じ。高校生の男の子にとってはね。

 それはサテオキ。もう一つ特筆すべきは『雪山症候群』。いろいろ今後の伏線が込められていそうな中編である。キョンの奇妙なデジャブ。情報統合思念体の中での急進派の存在の暗示。長門がいなくなった場合のハルヒの出方。鶴谷さんの洞察力。この先回収されるかどうかはわからないが、いろいろ期待させる伏線である。楽しみに待つとしよう。

 ちなみに、長門が出現させたと思われる朝比奈さんの幻だが、ワイシャツ一枚というイメージは長門は一体全体どこから持ってきたのだろうか? 実はそれが一番回収して欲しい伏線である、俺にとっては(笑)。まったく、読書していると思ったら変なことばっかり覚えて(笑)。

 ということでこれは良い作品がそろっていてしかも発展性も期待できる『暗黒の世界』だ。ここまで来ると全然喩えになっていないがまあそれはそれ。

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