2005-01-05 [長年日記]
_ [読書メモ] 『イリヤの空 UFOの夏』
まあ一言で言ってしまうとエヴァンゲリオン症候群の一冊(最近はセカイ系とかいう言い方があるらしいが)。ということで、場数を踏んだ本読みにはある程度ストーリーは見えエンディングも見える。が気にする必要はない。主人公たちの心理描写をけっこう丹念にやってくれるので、彼らと一緒に驚いたり喜んだり悲しんだりできる。
主人公浅羽は中学二年生。夏休みは宿題もせず裏山の秘密基地で、UFO基地と噂される園山基地をずっと監視していた。夏休み最終日に、学校のプールに忍び込んで泳ごうとするが、そこで不思議な少女(ありきたりな言い回しだ)と出会う…ってな導入部。
まずは典型的なボーイミーツガール on SF系。主人公たちは中学生であり、それに見合った純真さとずるさと無力さが描かれ、男の友情あり女の友情あり初デートあり三角関係ありタイマンの中に芽生える友情あり距離のあった兄妹関係の改善ありと青春たっぷりである。
とはいえそのような日常は次第にどこかへと追いやられる。始まる始まるといってなかなか始まらなかった戦争がついに始まったのだ。そんな中浅羽のとった行動は…
とは言え、青春は青春でいいんだが、30男の俺が一番感情移入したのは榎本(や椎名)だったりする。彼が一番悪者になるボーリング場のシーンだって、きっと榎本としてはゲームが終わるまで待ってた上でのことだったんだぜ。人払い(笑)までしてさ。彼は、伊里野が定時連絡してくれるのを待っていたんだよ。そうしないと叱らなければならないから。それはしたくなくって、でも遊びにかまけてすべきことをしなかったらけじめをつけさせなければならなくって、せめてゲームが終ってからでも気がついて連絡をしてくれるようにと祈りながら、ゲームが終わるまで待っていたに違いない。まあ伊里野も、授業が中止になるような状況なんで定時連絡をしたら基地に帰らなければならなくなることは勘づいていた上での確信犯(誤用)だったんだろうけど。
そして榎本は、自分のしたことの最後の落とし前をつけるために、浅羽が自分を殺すように仕向けるんだ。もう彼としては、ことが成ったら後は死ぬしか道は残っていなかったんだよ、気持ち的に。実際「地獄には俺が行く」って言ってたしな。それだけを頼りに彼は(椎名みたいに)つぶれずに最後までやってこれた。とりあえず即死はしなかったようだが、手当てを拒んだだろうと俺は思っている。
あとこの辺の大人チームは、浅羽に(たぶん伊里野にも)きちんと向き合っていた印象がある。韜晦に紛らわせて自分の息子とすら向き合わなかったエヴァンゲリオンの司令官(俺にはそう見えた。アヤナミには甘えてすらいたし)とはエライ違いだ。ちゃんと浅羽が殴られる必要があるときはガシガシ殴ってくれたし。行くとこまで行く必要があったときはちゃんと見逃してくれたし。殺意を向けられる必要があるときはちゃんと目の前に現れたし。救いのないこのお話での数少ない救いの一つだろう。だから浅羽も納得できたんだ(「納得なんてしない」とか言ってたけどね)。
あとは晶穂な。三角関係のライバルが、勝負どころでない、ある意味絶対勝てないポジションに行ってしまったので、ちょっとつらいな。友情の面からも。彼女も乗り越えるべき壁はまだまだあるんだなあ。これからもあんたも色々と大変なわけよ。
キルマークがよかったマークになっているところと、最後の校長の話がちょっと泣けた。
最後に、シリアスな話にあのアニメ絵はやめてほしい。そう言う俺はどういうイメージを描いていたかというと、、、エヴァンゲリオンのシンジ君とアヤナミだったりする。晶穂は委員長な。
駄目じゃん。
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1. 『イリヤの空 UFOの夏』
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1. 紹介
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